当選無料バス旅行の楽しみ方のコツを知った

「お客様に抽選で無料バス旅行が当たる」っていうやつね。
そういえば時々見たことがあったよ。気にしてなかったけど。
でもさ、今、無職だからね。先日、郊外型のショッピングモールで
買い物したときに応募してみたのよ。そしたら当った。
「沼津で寿司食べ放題と三嶋大社コース」か
「日光で湯葉料理と東照宮コース」か選びなさいとのこと。

「当選のお知らせ」と一緒に郵送されてきた簡略な日程表で、
沼津コースでは山梨県の宝石屋、日光コースでは栃木県の寝装屋に
90分滞在し、その他食品関係の店に20〜30分ずつ滞在することが
明記されている。
そして当選者1名の他に誰か同行参加する場合は、非当選者の参加費
1万円程を払わなくてはいけないとのこと。
土日の参加は当選者も千円ほど追加料金が必要とのこと。
集合場所はそのショッピングモールの駐車場。

ああ、立ち寄り先の店からのリベートと、非当選の同行者からの参加費で
成り立っている旅行なのか。
どんな感じなのか興味がわいて一人参加することにした。
なんか寿司の写真が色鮮やかで、思わず沼津を選んでしまった。
そう。私はこの時点でまだ理解していなかった。
買い物前提の無料バス旅行で「沼津港の新鮮な寿司食べ放題」って、
そんな文面をマジで受け取ったほうが間抜けものでございます。


・当日はショッピングモールに朝7時前に集合。
・広い駐車場なので、参加者は車でここまで来て夜まで無料で駐車可。
・沼津コースはバス1台、補助席なしでほぼ満席の45名参加。
・参加者はほとんど中高年女性。大半が40〜60代の女性。
・大半がおひとりさま参加。
・数組みが自己負担有りの同行者との参加。
・男性は3名だけでいずれも夫婦参加。

そして会話は雰囲気で分かったが、こういった当選バス旅行が
初めてではない参加者がわりと多い様子。
なんか慣れた感じで落ち着いている人が多い。


バスの座席はガイドさんから指定される。
私は60代女性の隣になった。これがとても良かった。
この人は当選バス旅行とか、その他の旅行とかいろいろ慣れている。
そしてにこやかに穏やかに、趣味の手作りパンの話や
幼い孫さんが遊びに来る話や、ザリガニの飼育や、庭に果樹を植える話など
実に平和で微笑ましい話題ばかりを少々語ってはしばらく眠るという
非常に良いペースで接してくれて心が温まる。


そしてバスは山梨県勝沼市に付き、第1回のトイレ休憩とのことで
日程表には記載がなかった漬物やに有無を言わさず全員誘導される。
その漬物やは、何故か勝沼でキムチを作っている。
バス乗客45人を集めて漬物やのおじさんが、このキムチが如何に素晴らしいか
滔々と熱弁を奮う。あとは干しぶどうとか、他の商品も見せられる。


でもねこの日の勝沼は、広がる桃畑で桃の花が満開。
バスの中で、クールな乗客達からも桃畑のピンクの花々に歓声が上がっていた。
キムチや漬物や干しぶどうよりも、満開の桃の花が見たいじゃないか。
しかし、参加者は誰も文句も言わず、セールストークを最後まで聞き、
少々の買い物をしたりしなかったり。そして静かに早めに店を出て
バス出発時間までのほんの数分間、周辺の桃畑をそっとのぞきに行く。


桃畑は美しいよ。車窓以外からは数分しか見れないけど。
このとき私が購入した干しぶどうは、車内で気づいたらチリ産だった。
勝沼まで来て南米のブドウを購入。
隣の席の御婦人はそれに対して「こういうのってそうなのよねえ」と
まったく動じずにこにこしている。3袋500円だし、まあいいか。





次に、旅行会社の経営的にはメイン企画な甲府市のジュエリー屋。
宝石工房を持つその会社の会議室のようなところで
そこの宝石加工の職人さんという男性の非常に上手なセースルトーク。
「このあと皆様をギャラリーにご案内します。素晴らしい宝石がつけ放題。
気に入ったらどうぞお持ち帰りください。後日の分割払いでもかまいません」
ダイヤモンドのネックレスの他に、つけていると遠赤外線で冷えが治るとかいう
宝石のネックレスについての熱弁。

そして「ギャラリー」っていうのは、特に何か面白いものを展示してあるわけではなく本当にジュエリーショップだった。
あまり広くない店内に販売員さんがたくさん。
最低価格が10万円くらい。
店員さんたちは20〜30万円くらいのをそれぞれ熱心にすすめていた。
そんな店内に90分もいるのは耐え難いので
店の外で時間をつぶせるところはないかとバスガイドさんに聞く男性客あり。
「この辺は周りに何もないんですよ〜」とあっさりかわされていた。
その店内を抜けると次の部屋。
そこは店員がほとんどいなくて、3千円からの安いアクセサリーの売り場になっている。
気づいたらバス旅行熟練者たちは、販売員が大勢頑張っている店内から
早々にこちらの静かな売り場に移動していくつかある椅子に座って
参加者同士のおしゃべりをしたり、持参の本を読んだりしてすごしていた。
私なんて用もないのに400万円の指輪を5分くらい眺めて無駄に疲れたのに。
大半の客は当然「見るだけ」だったが、何人かは買っていた。
45人の客のうち、10万円以上する宝石を3人くらいは買ったんじゃないかな。
90分間軟禁されたような感じだが、そんなに強引に売りつけられることもなく。


そしてバスは山梨県から静岡県に移動。
「静岡が誇る沼津港の新鮮お寿司食べ放題」というタイトルの昼食。
これには愕然。「日本3大がっかり」の一つにエントリー希望。
安い回転寿司を更に3割くらいショボショボ縮めて乾かした感じの物体。
そんな自称寿司と、食欲減退するような風情の揚げ物やサラダ的なものを
並んで各自の盆にトングで取るようにというバイキング。
えええ。いくらなんでもこれはどうよ。と思ったんだけど。
でも参加者の皆は、それほど動揺する様子もなく
テンション低めにおとなしく食べている。
隣の席の御婦人に「思ったのと随分違うお寿司だ」と話しかけると
静かな調子で「集合場所のショッピングモールの中の回転すしで食べれば
これより美味しいのにね。でもこういう旅行はこうなのよね」冷静。
当選バス旅行の熟練者達は、高い主婦力でこの状況を達観なさっている。



その次は三嶋大社。しだれ桜がまだ散り残っていて、みんな喜ぶ。
バスが到着すると有無を言わさず全員並ばされ、写真屋さんが記念撮影。
小一時間、神社を散策。再びバスに集合するとその記念写真が
プリントされていて1枚千円とのこと。
写真屋さんがきれいに撮ってくれているけれど、知らない人同士の団体の
集合写真だからね。さすがに誰も買わなかった。写真屋さん儲からない。

三嶋大社に、なんか囲いの中に鹿ばかりいっぱいいるところがあった。
目を合わせずにこちらに近づいてきて排尿している鹿。



その後はまた、「わさび漬けや」と「ひもの屋」でトイレ休憩という名目の
30分買い物タイム。
私は地元のスーパーだったら買おうと思うこともないような
わさび風味の食卓塩とか買ったけど、みんなやはり買う量は少ない。
買い物は少なく終えて、出発時間まで
わさびソフトクリームを食べる流れに私も乗った。
最期の「ひものセンター」でも、あまりたくさん買う人はいなかったみたい。
隣の席の御婦人も「年々こういう旅行での買い物の量がみんな減ってる。
数年前の旅行ではバスの棚に大きいおみやげ袋がたくさん詰め込まれたのに」と。
バスの中の乗客同士の会話でも「ここで今買わずに、解散場所の
ショッピングモールでお菓子でも買って帰ったほうが良か考えちゃうのよ」とか。
今回の旅行は天気はあまり良くなくて、富士山が全然見えなくて
残念だったけれど、にわか雨の後の大きな虹が出て帰りのバスの中から
みんなで喜んだ。
さくっと解散して、買ってきたアジの干物を家で焼いたら
思ったよりも随分美味しくて、家族に大好評。


・有料での同行参加はしない。
・買い物は落ち着いて判断する。
・そういう旅行なんだと割り切って、ゆるい気持ちで参加する。

以上の注意点を守れば、当選バス旅行も楽しく参加できることを学んだ。
あと、抽選は主に40代〜60代女性に当たるようになっているらしい。