長野出張

7月某日、珍しく遠方に出張することになった。
私とK君の2人で長野まで行ってそこで数時間仕事するという。
K君といえば職場関係で彼を知るものはだいたい皆、彼のことをほめている。
事務能力高く、人当たり良く、文句言わず礼儀正しく
笑顔さわやかで優秀な若者…
夏の信州でそんな大好評の青年と2人旅…
そんな、そんなおいしい話は世の中に存在しないって
子どもの頃に学校の先生が言ってた。
でもほれ、仕事だから。あんまりそう意識しないようにすれば、
でもそれじゃ、どうやって2人で道中どうなのよ。
と、無駄にどぎまぎする心を隠して働いていた出張予定日3日前に
K君が私のところにやってきて
「長野までの新幹線の切符は準備できましたか?自分は昨日買いました」と言う。
さすがK君。そんなさわやかな笑顔でさらりと自分の切符だけ先に購入済みの報告とは。華麗な回避作戦をすでに発動されてしまった私。
「え?まだだけど、東京駅何時発の何号車?」とそこでK君の鮮やかな戦法を台無しにしかねない質問をうっかりしてしまった愚鈍なおばちゃんは私。
K君は端正な笑顔を崩さず「○時○分発がちょうど良い時間に到着します。何号車だったかはスミマセン今ちょっと思い出せなくて」と。
悪かった、K君、誰も傷つけないあなたのそのファインプレーを妨害しかけて。
そしてK君は長野で仕事終了後は宿泊し、そこに後から奥様が合流して翌日の週末を夫婦で長野で過ごしてから帰京するという。
現地での実際の仕事時間以外にほとんど私とK君が接点を持つ心配はないという完璧な計画。さすがだ。

K君の有能っぷりを思い知った私。
じゃ、私も長野で仕事終わる時間に夫を呼んで
出張→夫婦旅行にしよう。夫も了解しばたばたと準備。



東京駅では「この新幹線のどこかの車両にK君も乗っているはず。
でも探して欲しくないよねきっと」と1人でこそっと乗り込んだ。
席についておとなしく村上春樹のちょっと古い小説を読んでいたら
「ペニスは勃起しなかった」とか「マスターベーション」とか。
ああ、K君になんかすまない。私との隣席を回避してくれてありがとう。
とか、もにょもにょ思う。