髪型の希望方法

髪を短く切った。夫はちょっと文句を言っている。
私は昔からどんな髪型が自分に似合うとか否とか、考えようとしてもよく分らない。

ずっとずっと前に
通りすがりに入った美容院で壁のポスターを指して、
あんな感じで、と言ったらそれがずいぶんアヴァンギャルドなスタイルだったので
店の美容師のおばちゃんに大変驚かれて、
何だよ、どこの定食屋だって壁に貼ってある張り紙を指すのが
最も簡易なオーダーの仕方だろうに、美容院っていうのは
客が注文しちゃいけない物をわざわざ掲示しているのかい。と納得できず、
しかしシャイな女子として「ああ、よく分らないんで適当に何でも良いです」と
温和にたのんだ。

私が度々ポリシーのカケラもない髪型になって帰宅するので
売れない漫画家をやっていた夫は
「似合う髪形を考えて、ちゃんと美容師に伝えないといけない。
 自力で説明できないなら、絵を見せれば良い」と強く主張し、
夫がそのために考えて描いた、私のような人物の肩から上の正面と横顔の
漫画絵を持たせた。夫なりに考えた似合うような髪形だ。
店でこういう手描きの漫画絵を見せて注文する美容院の客になれってことかい。
しかしそんな恥ずかしい客になってしまうことよりも、色々な面倒くささのほうが
勝ってしまって、結局本当にその漫画絵を美容師さんに見せて頼んでしまったよ。
あれは絶対に私が自分で描いて来たと思われているだろう。
しかし夫に持たされたと知られるよりはマシだと思ったのでまあいいや。
これも昔の話で、当然現在は夫もそんな妙な熱意は無い。