ちょっと気を使う

アルバイト先の高校生達は
美術系だけではなくて音楽系の子達もいる。
その音楽というのはもう完全にクラシック音楽なわけで、
廊下を歩きながらも普通にイタリア語の歌曲とか歌っている。
バイオリンケースとか背負って通学する黒髪の少年少女達の
麗しい歌声が惜しげもなく鼻歌のように。

「世の中のロックとかポップスとかの音が耳にうるさくて
苦痛でたまらなくて、でも中学校ではみんな今はやりの曲を聴いていて
話題にも加われず居心地が悪かったけれど、この高校は快適」と
実際明瞭に語る子もいる。
そんな級友たちの中で「昨夜はライブでヘドバンしすぎて頭痛がする」なんて
保健室にきてしまうファンキー娘は大変稀少だ。
ここの音楽系の大半の子は、ロック系の音とか、理屈でなく耳に苦しいんだな。
校内のロックバンドが美術系ばかりなわけだ。

保健室で事務仕事とかしながら持参のCD聴いていることもあるんだけれど、
音楽系の子が来ると気を使ってあわてて音を止める。
そして専攻によっては、ちょっとした突き指くらいでも
すぐに大きな病院に連れて行く。
耳も指も大事にして、将来の日本のクラシック音楽界の宝をめざす。
しかし毎日毎日レッスンして作曲したり歌だの聴音だの演奏だの連日のように
1対1の試験があって、これは大変な生活の若者達だ。
保健室でウダウダ言っていても、立派なホールでしっかり演奏して
大勢に大拍手されている子。ちょっと不思議な世界。