放課後の校庭で走るあの人

謡曲の歌詞とかでも、放課後の校庭であこがれの彼・彼女が走ったり
何か体育系の部活動の練習に励んでいる姿を
校舎の2階の教室の窓から眺めてときめくこれが恋なのね、
みたいなストーリーがあるじゃない。
あれはさあ、やっぱりフィクションの世界だよね元々。
それが現実に起こりえる状況っていうのは、ある程度相手のことを知っていて
好意をすでに持っていて、その上でああその人が今そこで走っているな、とか
そういうことであって、ただ普段全く知らない人が校庭でランニングしていたからって
そこで校舎の窓からそれを見ていたってそもそも個体の識別が無理だし。

私がアルバイト中の高校は小規模で女子が多く、校庭がない。
隣接している高校は生徒数が多く、しかも男子が多くて、体育もさかんで
うちの校舎の廊下の窓からは、別世界のように校庭一杯に男子生徒がわさわさと
野球だのサッカーだの、うちの校内では決して聞くことのない野太い声で
エイホエイホーと毎日毎日鍛錬に余念のない姿がすぐそばにいつも見える。
そして隣のその高校とは共用の設備もあり、互いの学校の敷地内を毎日
自分の学校の通路のように普通に通っているので生徒同士は日々すぐそばにいるが
恋の話は全く聞かない。さらに向かいには超進学校の男子校もあるがそことも
ほとんど互いに無関心の伝統があるようだ。
うちはこんなにかわいい女子生徒達がいるのにな。
確かに絵の具だらけのツナギ服の女子には話しかけづらいか。
楽器ケースを背負った色白黒髪ストレートロングの眼鏡の女子も
なんか声かけても、これからバイオリンのレッスンだから、とかで
すぐに帰りそうな雰囲気だからか。
どうも自分の知っている高校生活とは違いが大きいようで面倒だから
見なかったことにされているのか。

この学校は今、文化祭の準備が毎日すごい気合でなされているけれど、
ステキな男子が見に来てくれるかしら的な発想は微塵もない伝統。
音楽も美術も自分の納得がいく作品を仕上げて発表する気合がガチ。