悪霊

悪霊(上) (新潮文庫)

悪霊(上) (新潮文庫)

うちの娘(高3)は、町内一ドストエフスキー好きの高校生だ。
もしかしたら高校生では市内一のドストおたくかもしれない。
もちろん読んだのはまだ数冊。
しかし、読んだ中で一番気に入っているというのが「悪霊」という。
カラマーゾフの兄弟」も「罪と罰」も「白痴」も翻訳者の違うのとか
解説本とかもけっこう読んで、絶版の古い訳はわざわざ古本屋で探して、
その結果一番好きなのがこの「悪霊」という。
週4日くらいの頻度で、短い時間だらりとした態度で私としゃべるときに、
アリョーシャとかラズーミヒンとかムイシュキンとかキリーロフとか
勝手にてれてれ語って、それで「キリーロフが一番好き」と言う。
もう半年くらい前から「お母さんも悪霊を読みなさい」と言い続けている。


それで、この度、わたしもやっと「悪霊」を読んだ。
ロシア革命のちょっと手前の時期の、うそ臭い革命組織の内ゲバとかの話。
上巻の初めの方とかで延々と描かれるステパンという
ぺらぺらしゃべってばかりの、それでいて金持ちに大切にされているおじさんは
主人公でもなんでもない。こんなに役にたたずうっとおしいのに
がっつりスポンサーがついていて、ある意味理想状態。本人はその自覚はないが。
「それで、このキリーロフが一番好きっていうあなたの考えは何なの?」と
娘に聞いたんだけれども「役に立たないところ。底辺って感じ」とか言う。
「神は必要だから存在するはずだ。
ところがぼくは神が存在しないことをを知っている。」っていうのが
だから我意の頂点を求めなくてはならないし、そこに至るためには自分の
自殺は義務である。という主張を持っている人物。
どこが「一番好き」になるんだよ。大丈夫かなあ。
お母さんはねえ、シャートフの単純さが一番好き。
革命とか信仰とかで悩める暗い青年が、いきなり別居中の妻が帰ってきたら
幸せの頂点。しかもその妻とは過去に半月しか新婚生活をしていないし、
いきなり馬車でやってきて3年ぶりに再会した妻はなんと陣痛で。それなのに
シャートフはおろおろと産婆を呼び幸せ頂点。
あとすごいのは、この話も他のドスト作品のようにというかそれ以上に
ほとんど全員無職状態。
貴族は男女もちろん、それ以外もほとんど男は誰も働いているそぶりがない。
でも例によってみんなよくしゃべる。無駄に語り合う。
娘がこの本を私に紹介するときに語ったのは「ラズーミヒンとか
アリョーシャとかみたいに、ちゃんと善の行動を出来る人が誰も居ない。
酷い人ばかり。でもそこがいい。」だって。共感しづらい。