内藤礼は好きな人は是非行くと良い

鎌倉の神奈川県立近代美術館で娘と観てきた展覧会は
内藤礼「すべて動物は、世界の中にちょうど水の中に水があるように存在している」

これはとても素晴らしい展示だった。
しかし決して万人向けの展覧会ではない。
たとえば、蚊取り線香から立ち上る煙の筋とか
蜘蛛の糸に日光が当たって風で少し揺れているのとか
そんなものを数分間じっと飽きずに面白く見る人は是非行くと良いと思う。


一昨年の横浜トリエンナーレでの三渓園の展示でもそうだったと思うんだけれど
彼女の作品には「何よ。何か展示してると思って見に来たのに、何も無いじゃないのよ」
というブーイングだってあるのではないかと思う。
実際、予備知識全く無しに彼女の作品を見たら
それが作品の展示だということ自体に気付かない客は普通だと思う。
しかし彼女の作品は黙って静かにじっくり時間をかけて立ち止まって眺めて
この感じをいつまでも何度も思い出すことで
心の背筋がゆったり遠くまでしゃんと伸びるような
ここの地に立ちながらひっそりと大切に天までつながっているような感覚が得られる。

中庭でのリボンの展示「精霊」は、晴天の日の写真が使われているけれど
私の見たときの曇天での展示も良いものでしたよ。
薄暗い大きな展示室での「地上はどんなところだったか」は
一人ずつガラスケースの中にも入って鑑賞できる。
そのタイトルが本当に心にグッと来て涙が滲みそうになる。
私の魂が静かに天上から地上を懐かしく見下ろしているのか。
ガラスにも壁にも何重にも小さな光りは反射して
小さな灯りのそばには儚く壊れやすいささやかに存在する物があって。


その他、中庭のボタンの作品は見つけたときに思わずニッコリしたが
うっかりすると気付かず見落とすので注意。


第二展示室では餃子の皮のような円形の薄い白い紙をもらって
その場では私も意図が理解できなかったが
帰宅して数日後にそこに極小の文字がプリントされていることを知った。
あらためて、自分があの作品の世界、遠くから地上を思う心に
呼ばれていたのだとわかってまたちょっとウルっと来た。
何と書かれているか、紙もらった人は視力の限界を超えても読むように。
40代以上の人は老眼のカケラもない若者の助けを求めないと無理かも。


このタイトルはバタイユからだそうだ。

宗教の理論 (ちくま学芸文庫)

宗教の理論 (ちくま学芸文庫)

一応、該当部分とその前後は読んだけど
コメント不能。数回読み返すだけでいっぱいいっぱいだ。

美術館を出たら夕暮れ。