死にたい気持ちをきくこと

自殺する私をどうか止めて

自殺する私をどうか止めて

「自殺する私をどうか止めて」というこの本の題。
自分が自殺しようとするのを人に止めてもらいたがるなんて
そんなの矛盾しすぎているじゃないかと思う人はきっと多い。
これは6年ほど前に書かれた本。
書いたのは東京自殺防止センターの西原さん。
今から30年前に大阪で自殺防止センターを立ち上げて
10年前からは東京でも資金と仲間を集めて活動をはじめた人。


先日その西原さんや、そこで活動している方々とお話をする機会があった。
東京も大阪も自殺予防センターはボランティア活動だ。
日本は年間で交通事故死の5倍、3万人が自殺している国だ。
寄付金等で確保された電話回線。昼間はそれぞれの生活をしている匿名の
ボランティアが、死にたい人たちからの電話を受ける。
電話は深夜でも未明でも、受話器を置けばすぐにまた鳴る状態という。
「もう消えてしまいたい」
「死ぬ前に人と話がしたかった」
「この電話が終わったら致死量の薬を飲みます」
次々来るそういう電話を、毎日誰かが6時間交代で受ける。
本当に自殺したいと思っている人も
自殺したい気持ちが99%あっても、同時に1%の生きたい気持ちが
あるのだと西原さんたちは言う。
電話を受けた人はしかし「死んではいけない」とか「自殺はだめ」とか
言いたくなる傲慢な気持ちは抑える。
その人の人生を決めるのはその人自身だから。
自殺防止活動とは、自殺したいと訴えるその人の感情面に添って話を聴き、
その人が今この瞬間に死にたい気持ちで生きているのだということに
逃げずに向き合うことだという。
ここの電話では必ず、自殺したいと思っているかという問いかけをする。
相手の「死にたい気持ち」から逃げない。


西原さんは「我が谷は緑なりき」という映画での炭鉱の落盤事故の話をした。
事故で生き埋めになった仲間を暗闇の中で探し続け
やっと見つけたが、そこですぐに担ぎ出して救出するのではなくて
助けに来た者は、その被災者の隣に手で浅い穴を掘って
その窪に並んで座って、しばらくそこで閉じ込められて待っていた友人の
気持ちを静かに感じ取る。そして友人が自分で歩けることを確認して
支えながら一緒に歩いて外に出たのだという。
なぜさっさと担ぎ出さないのか、しばらく並んで座るのは何なのか
それは理屈ではなく、心の問題で
頭と心が両方同時にしっかり働くことが重要だという。
自殺をしようとしている人に、傲慢なおせっかいはしない。
その人が持っている力を信じて
その人の気持ちの向いている方を一緒に見て聞くこと。




死にたいと思って電話をかけてきた人に
自分が何か言うことで自殺したいという気持ちを変えられるなんてできない。
しかし、その人は今は生きている。死にたい気持ちを否定せずにしっかりと
きくことで、その人の生きたい気持ちは
0.1%だったのが1%くらいの太さにはなるかもしれない。
1時間後に自殺しようとしていたのが、
とりあえず今夜はまだやめておこうとなるかもしれない。
それが自殺防止の考えかただと言う。


自分自身のメンタルにもダメージを受けかねない役割だが
そのためにもスタッフ同士の支えあいと多くの人の協力が必要と言う。
西原さんは高齢だが、とてもしっかりと元気で
この活動を広めるために全国どこでも出かけている。