そこは話しかけん方が…

娘の大学では、卒業する先輩たちの
卒業制作の作品の公開があったので見てきた。


娘が手伝った先輩の作品が、白いベッドに
ゆったりとした映像が投射されて静かな良い音楽が流れている
美しい作品でうれしくなった。


みんなそれぞれに大変な頑張りで制作していて
そのほかに卒論も書いて、就活もしているのかい。
どれも大変そうだが、たくさん良いものを見せてもらった。


あまりまだ人のいない静かな展示室で
拷問器具のようなイメージの立体装置を作って
その中で鎖で拘束されて上体を吊るされた体勢で
足指でペンを持ちドローイングパフォーマンス中の
堕天使風ぼろぼろゴスロリ女子学生1名。

なんかこういうのは、観客が自分だけで距離が近いと
どうも遠慮というか、
あ、私が今ここにいるってことは気にしないでねって思って
離れたところから見ちゃって、でもそれも変かしらとか悩む。
そこに、わいわいと60代女性2名組が入室。
いきなりパフォーマンス中の女子学生の腕に触れて
「あら〜!ごめんなさいね!お人形かと思ったら!」
「まあ、そうなの!人形じゃなかったの!」
でかい声でガンガン2人で話しかけている。

「まあ!こんなに腕が冷えちゃってるわよ!」と言いながら
その女子学生の腕をさすってあげている。
そして女子学生の足元にあるたくさんの紙とペンと
「ご自由に何でもお書きください」という観客向けのメッセージに気づき
「卒業おめでとうございます。4年間お疲れ様でした」とか書く。
とても親切で良い人たちだということはよくわかる。
そして「私たちは九州から来たのよ「あなたどこ出身?」とか質問まで出す。
ああ、こんなに親切全開の笑顔で2人がかりで両腕をさすられながら
パフォーマーはいったいどうすれば良いのか。
そこから3メートルほど離れたところで立ち尽くしている私は
いったいどうすれば良いのか。
女子学生が拘束姿勢のまま足指で「ありがとう」と書き
それでもおばちゃんたちは更にまだ少しの間がんがんほがらかにしゃべり
満足して立ち去るのを私は離れたところからただ見ているだけで
ああ、この会場で最も無力なのは私。