息子が一人で夏休みを追加したこと

9月になり息子は高校の新学期が始まった。
そして土曜日、高校はいつもどおり休み。
息子はいつもどおり休日の朝寝坊というか
起きてきたときはすでに午後だった。
そして「夏休みに買った青春18切符がまだ残っているから
もうすぐ有効期限が切れるその前に使いたい。
今日これから東北の被災地に行ってみたい」と言う。
それはキミ、午後に起きて来た人が言うセリフじゃないよね。
しかし検索の結果、今から自宅を出れば特急券は買わずに
青春18切符普通列車と急行電車を乗り継いで夜には
仙台に到達できることが判明。
仙台のネットカフェで土曜の夜を過ごして日曜の朝から
その先の行けるところまで行って被災地を見て夜には東京に戻るという。
「被災地に行って何をするの」と私がきくと
「手伝えることがあったら何か手伝う」と息子。
「高校生が一人でブラっと行ってもボランティアには参加できないよ」
「うん。一応軍手は持っていくけど、手伝いはきっとできないのは知ってる。
 どんなふうになっているのか見ておきたいんだよ」
そうだね。私は7月に岩手県の被災地に災害派遣で行ってきたけれど
震災後の日本でこれから成人するこの子は
被災地は映像や写真でしか見ていない。
役に立つことはできなくても、行った先で迷惑かけることのないように
安全に気を付けて、頑張って営業している店でちょっと買い物でもして
日曜の夜にはちゃんと帰っていらっしゃいと送り出した。
息子は電車で仙台から宮城県の海側に行って、
瓦礫が寄せ集められて更地のようになったところに
骨組みだけ残った建物が点在しているところを
少し歩いてきたようだ。
私が仕事で行ったところと場所はちがうけれど
津波にさらわれた町の様子はやはり似たようなことになっていたようだ。
ただ、私が行ったところでは当時は平日はユンボとか重機がたくさん
音をたてて動いていて、休日には市民のボランティアや
企業や各種職能団体が「災害支援」の札を付けたバスなどで大勢来ていたが
息子が歩いた宮城県内の被災地では駅から徒歩圏内だったが
人の姿はあまり見かけず静かだったという。
電車はちゃんと動いていて、普通に駅から歩いていくと
建物の土台や骨組みだけを残して静かに瓦礫野が広がっていると。


息子の同級生の中には親戚の関係で、何度も瓦礫撤去のボランティアに
学校を少し休んでまで熱心に参加している子もいて
その子は懸命にボランティアをして、しかし学校に戻るとクラスの子たちは
体育祭をみんなでガンバロウとかやっているわけで
どっちが「そんなことよりもこっちが大事だろう」ということになるのか
なんか生徒同士で齟齬というよりも軋轢のような感じができているという
そんな話もあって。
息子が被災地をただ自分で見てきたいというのもなんか気持ちはわかるような。
自分の息子のそんなモヤっとした東北行きを止めるべきという意見が
あるとしたら、やっぱりそれもそれで正しいんだろうとは思うけれど。

そして日曜日の夜に「電車で寝てしまって乗り換えに失敗して
福島県内で終電になってしまった」という、息子からの電話があり。
その駅の近くには震災以後は営業しているネットカフェも
深夜営業のファミレスもなく、やっと朝までやっているチェーンの居酒屋を
見つけて、餃子だけで月曜日朝の始発まで粘って帰ってきた。
結局、月曜日は高校には登校できず、
夏休みを一日おかわりしたようになってしまった。

おみやげに息子は変なフルーツ味のラスクのセットを買ってきて
どうしてまたこんなよくわからない食べ物を買ってきたのか聞いたら
「なんかもうギリギリで頑張っている感じの店があったから
 入ってみたらまあこれなら良いかと思って」とのことだった。
甘くてなんかちょっと不思議な味だった。